【 慰戯 】  

人々は幼児の時からすでに自分の名誉や富や友人や、
さらにはすすんでは友人の富や名誉やそういうものに対する
心づかいをさせられる。
人々は仕事や国語の習得や鍛錬を嫌というほどやらされる。
そうして自分の健康や名誉や財産や、また友人のそういうものが
りっぱな状態になければ幸福になれないこと、
また、ひとつでも欠けるならば不幸になることを教えられる。
そこで人々はいろいろの責任や用事ができて、もう夜明けから心をつかう。

──君はいうかもしれぬ。
「そんな仕方が彼らを幸福にするとは妙なことだ!むしろ彼らを
不幸にするのにそれほどよい仕方がほかにあろうか」

──何? よい仕方がほかに?
あるとも。そういう心づかいを少しも彼らにさせないようにしさえすればそれでよい。
なぜというのに、そうすれば彼らは彼ら自身に眼を向けることであろう。
そうして自分の今のあり方をおもい、また自分がどこから来たのか、
どこへ去るのか思うであろうからである。 (04/3/2)

             (パスカル『パンセ』143)