解説

*1【超越論的経験】

現象学おける「経験」とは、客観物や客観的自体についての主題的・客観的な「判断」と区別され、それらの判断に先立ち、それらを可能としている基盤としての前述語的な「経験野」のことです。(『経験と判断』)経験はたんなる事実経験でなく、本質的・形相的な性格を持ちます。
この根源的な経験野は、すなわち超越論的主観性の構成作用が機能する基盤です。超越論的経験野の根本構造として、世界地平、時間意識の総合、同質的および異質的連合などが特記されます。


*2【理性の目的論的構造】

知覚対象は、その周囲に未だ規定されていない地平に取り囲まれており、経験はそれを充実させるべく進行してゆきます。しかし、絶対的・十全的に対象が与えられることはありません。なぜなら、知覚経験の本質はそのパースペクティブ性にあるからです。にもかかわらず、認識は現実には決して与えられない絶対的十全性を目指して進行します。この原理を「目的理念」と呼びます。知覚経験の底層に働いているこの目的論的構造に含まれる

1.脱パーステクティブ性
我々の視点が特定の位置に拘束されることから脱却しようとすること。
2.立ち止まる今=永遠の今
意識の絶えざる時間的流動性から飛躍せんとする動向。

を読みとり、そこに理性の目的論の発生的起源を求めます。
自然の数学化による自然科学の成立も、この理性の目的論に導かれた理念化の一形態として捉えられます。(『現象学事典』<目的理念>参)