【 哲学とは何か 】  

哲学は常識や諸科学のヒュポダイムの批判に従事する格別な一学問である、
という主張も登場し得ます。──「格別な」というのは無論「偉い」といった
含みをもちません。普通の学問が自明の理、わかりきったこととみなして、
もはやそれ以上に吟味・検討しようとはしない通念的既成概念をことさらに
批判・討究する変り種というだけの意味です──。

この主張は哲学の学問上の性格を良く言い当てていると思います。
哲学が六ヶ敷いという印象を与える最大の理由も、じつは哲学がヒュポダイムの
批判に従事するところにあります。
哲学が無駄な思弁だと思われやすいのも同じ理由からです。
人々が、科学者達を含めて、わかりきったこと、自明の理だと思い込んでいる
ことがらについて、何故そうなるのか、果たしてそれは正しいのだろうか、
などと問い進み、検討や説明を試みようというのですから、無駄な思弁的努力
だといって冷笑されるのもわからぬ話ではありません。

・・・哲学の場合、人々が自明の理だと思っている事柄、それもしばしば”自明すぎて”
ことさらには意識されることもなく暗黙の大前提にされている事柄、そういう事柄に
関して異を唱え、新しい見解を表明しようとするケースが多いものですから、
なまなかなことでは理解されません。

・・・人々が自明の真理とみなしている命題が誤っていることを指摘し、
代案を提唱しようという場合、ヒュポダイムを異にするのが普通ですから、
発想法が通念とは体系的に相違するわけです。
ですから、たとえ言葉が通じたとしてもなかなか理解されません。(04/3/1)

                (廣松渉『新哲学入門』p4)