【9】 超越論的−現象学的還元および二重化の超越論的仮象

では、我々の主体は二つ(心的主観性、超越論的主観性)に分離しているのであろうか?

もちろんそうではない。
心的主観性(及びそれと対置して存在する世界)の存在は超越論的主観性を前提とする。

たとえば知覚体験は、心的主観性においては外部の存在者から与えられた所与性として捉えられる。一方、超越論的主観性における知覚体験は、外部世界の徹底的な判断停止により、志向的作用によって構成された単なる現象(意味)として捉えられる。

このように、超越論的主観における領野と現象学的主観のおける領野は平行する。
超越論的経験の領野は、観点を変更することにより、心理学的な経験領野へと変換される。*1 これにより、自我の同一性が保たれる。

心的主観に現れる心的経験を純化するために現象学的還元が必要であったように、超越論的経験を純化するためには超越論的還元 *2 が必要となる。

そして、この平行論の主題は、間主観性へとつながる。
超越論的な間主観性は、そこからあらゆる超越が存在意味を得る基盤である。*3