解説
*1【総合】
意識経験は多様な個別的体験(現出)であるにも関わらず、それを一つの経験として結びつける能力を持ちます。その能力が「総合」(「流れ去る多様の統一」)です。総合には幾つかの種類があります。
a 多様な現出を一つの統一した対象としての現出者への総合
b 想起された事物と過去に知覚した事物とが同一であることを結びつける総合
また、作用する次元により「能動的総合」「受動的総合」に分類されます。
能動的総合はすべて受動的総合を土台として行われます。ある対象が能動的に構成される時、同時にそこでは、受動的次元 *3 において蓄積された過去の経験が材料として提供され、能動的構成を補完します。この原理ゆえ、サイコロの一面を見た瞬間にサイコロ全体を一挙に理解できるのです。
受動的総合の基底をなすのは、「内的時間意識」による時間構成と「キネステーゼ意識」による空間構成です。これらが総合の形式的条件です。
能動的総合
↓
受動的総合 ↓:意識の深層へ
↓
内的時間意識(時間を構成)
キネステーゼ意識(空間を構成)
- 内的時間意識
- 意識のあらゆる諸体験そのものを内的に意識しつつ、それらの時間的持続を構成する最も根源的な場。あらゆる構成の根源的な場です。個別的意識体験の総合が可能なのは、もともと意識全体が総合的に統一されているからです。この普遍的総合の根本形式が「内的時間意識」です。
- キネステーゼ意識
- 運動感覚(位置与件)と対象の現出の感覚(アスペクト与件)との不可分の統一態を「キネステーゼ」と呼び、意識にはその性質が備わっています。身体の移動(視点を変えること)は多様な現出を意識にもたらし、一個の現出者が呈示されることを可能とします。事物の現われ(総合)とは、この「運動」と「感覚」が一体となっているがゆえに可能となるのです。
*2【意識流】
意識とは、さまざまな事物や事象が現れては消えていく一つの流れです。この意識の在り方が「意識流」です。意識流は現在と共に「過去地平」「未来地平」を有します。過去・未来の両方向に延びるこの流れはそれらを包括する一つの流れへと統一し、それが純粋自我となるのです。
*3【受動性、習慣】
超越論的自我によって構成されるノエマは、その能動的な作用に先立つ受動的次元においてすでに規定されています。*1 受動性の次元には次の二通りの働きがあります。
- 受動的志向性
- 自我の能動的構成に先立って、ある原理(「連合」(5))によってノエマを構造化する働き。
- 触発
- 連合によって構造化されたノエマが、能動的総合に際して働きかけること。自我の能動的作用によって獲得した意味(ノエマ)は自我極に沈殿し、「習慣」として受動的次元に保存されます。習慣は第二の受動性としてより高度な能動的総合の土台となります。
さまざまなノエマ・時間・空間・自我といった諸成分の出来上がった状態を分析するのが「静態的現象学」で、それら諸成分が生じてくる発生の過程を分析するのが「発生的現象学」です。
発生的現象学において、対象を構成する超越論的自我の能動的な働きに先立つ受動的先構成の次元が明らかになります。
- 静的現象学
- 構成的意識(ノエシス)と構成された対象(ノエマ)との関係を、その本質類型によって記述するもの。
- 発生的現象学
- 対象が主観性の能動的な作用に先立って、意識の能作の所産としてすでに生成し形成されている 受動的次元を明らかにする。
「意味は自我に先立ってすでに構造化されている。意味は自我を触発し、自我の能作を覚起する」
「受動性の次元は自我の能動性に先立つ次元であり、かつ、能動的能作が可能であるための基盤である」
*5【連合】
ノエマ的意味の構成に影響を与える受動的次元の原理が「連合」です。
連合とは、あるものを見た時にそれに類似した以前の経験を結びつける能力です。
例えば私がリンゴを見た時、そのリンゴ自体は私が初めて体験するリンゴですが、それが何であるか一から思考し直すわけではありません。以前のリンゴ経験を呼び起こし、目の前の物体を(過去に経験したリンゴと同一であると)意味づけて判断するからです。
連合の中で、始めての体験における連合を「原連合」と呼びます。原連合によって一旦獲得された意味は、受動性の次元に類型として蓄えられ(習慣)、次回の経験に影響を与えます。つまりある経験(の意味)は、その背後に蓄えられた膨大な意味地平との連関の中で決まります。
連合はフッサール他我構成における主要概念でもあります。(後述)